(一社)日本補償コンサルタント協会九州支部では、令和2年度用地補償研修会(大分・長崎地区)において、「事業用太陽光発電設備の調査算定について」をテーマに研修を行いました。付属資料を除き、インターネットでテキスト全文をご覧になれます。
http://www.be21.ne.jp/201208.htm
 その後支部会員から多くの質疑を頂きましたので、参考となる質疑案を作成し、支部会員向け非公式手持ち資料としてA4版PDFで令和4年5月に上梓。このページは、最新情報を加えて、Web版として同年9月に再構成しました。
事業用太陽光発電設備の調査算定は、先行事例が限られるためスタンダードと言えるものはまだなく、また固定価格買取制度(FIT)も毎年改正があるため、現時点での参考資料との位置づけです。具体の案件が発生した場合は、最新の制度を確認し、発注者と十分に協議の上、適切に業務を進めてください。その際の一助になれば幸いです。
(一社)日本補償コンサルタント協会九州支部基準運用専門部会委員
  長崎総合鑑定株式会社 補償担当取締役 幸福 裕之
0.目次
1 再築補償の収益減補償について
2 一部分割の復元工法による収益減補償について
3 一部分割の残存部分の収益減補償について
4 出力制御機器について
5 電力会社との系統連系工事費について
6 電力会社との接続契約について
7 調査表と算定様式について
8 固定価格買取制度の申請窓口と設備認定期間について
9 メガソーラーの構外分割移転について
10 太陽光発電設備の除却工法について
11 資源エネルギー庁よくある質問より
12 FITに係る令和4年度の動き
13 参考テキスト(事業用太陽光発電設備の調査について)へのリンク
1 再築補償の収益減補償について
Q1.太陽光発電設備の費用負担額及び移転料の算定例 平成29年4月 土地・建設産業局編によれば、再築の場合、売電価格の低下に伴う収益減が算定されている。
一方下記、資源エネルギー庁の<調達価格が変更される事業計画の変更整理表>によれば、モジュールを変更(再築)しても調達価格(売電価格)に変更なし。よって再築の場合も、「発電休止に伴う収益減」のみを算定すればよく、「売電価格の低下に伴う収益減」の算定は不要でよいか。
A1.資源エネルギー庁へ問い合わせたところ、土地の収用に伴う移設の「変更申請」と併せて太陽電池に係る事項の変更を行えば足りるとのこと。
この場合、同種同等設備の再築となり、出力の変更は無く「合計出力の増加(3kW以上または3%以上)、又は減少(20%以上)」に該当しないことから、調達価格(売電価格)の変更は無いため、「売電価格の低下に伴う収益減」は発生しないこととなるが、具体の案件が発生した場合は、最新の制度を確認して算定を行うこと。
<調達価格が変更される事業計画の変更整理表>
2 一部分割の復元工法による収益減補償について
Q2.上記算定例によれば、売電価格の低下に伴う収益減は、「設備変更を伴わないためなし」となっているが、一部分割する部分は、新たな発電設備となり、売電単価は下がり収益減は発生する。固定買取制度(FIT)での再使用機器による売電行為は、設備の使用年数を伸ばし、他の事業者と不公平になるため、規模の大小にかかわらず禁止と伺っており、この場合は、卒FITで任意での売電となり、売電単価はかなり下がるのでは。
A2.発電設備の移設について、土地の収用は認められている(下記資料)。そこで一部分割移転について、資源エネルギー庁へ問い合わせたが、移設とは、設備全体の移設を想定しているようで、一部分割移転について明確な回答は得られない。
よって一般的な回答とする。分割部分について、指摘のとおり既存とは別の新たな設備となり、新規申請となる。再築工法はFITによる売電が可能であるが、復元(移設)は、FITが使えないため、任意による売電となる。令和4年4月時点の九州電力の買取価格は7円/kWh(消費税10%込)である。
但し、具体の案件が発生した場合は、最新の制度を確認して算定を行うこと。
青枠部分の文章
原則として、設備の移設は認められていませんが、以下の急遽生じたやむを得ない理由があると認められた場合のみ移設は可能です。
@運転開始後において、引越しに伴い住宅用太陽光発電設備を移転する場合
A公共事業による土地の収用、災害等の事業計画策定時に想定できなかった事由であって、設置者自身に帰責性のない事由(土地や建物の所有者による地上権設定契約や賃貸借契約の解除は含まない)により、当該場所で事業を実施することが不可能な場合
3 一部分割の残存部分の収益減補償について
Q3.上記算定例によれば、一部分割のモジュールの支障範囲は500kW(1/4相当分)であることから、残存部分は75%の規模となる。下記変更整理表によれば、太陽電池に係る事項の変更、合計出力20%以上の減少は調達価格が変更されるため、残存部分の収益減も算定する必要があるのではないか。
<調達価格が変更される事業計画の変更整理表>
A3.算定例は、モジュール2,000kW、パワコン1,750kWの過積載案件で、発電設備の出力はパワコン1,750kW、太陽電池の出力2,000kWである。モジュール500kW分割後の残存部分は、発電設備の出力及び太陽電池の出力とも1,500kWとなる。発電設備の出力の減少は問題ないものの、太陽電池の合計出力は25%減少する。
資源エネルギー庁へ問い合わせたところ、残存部分は、土地の収用と関係が無いため、調達価格は下がるとの回答であった。よって、残存部分の収益減も算定する必要がある。具体的には変更申請を行い、売電単価は変更申請時の年度における価格が適用される。但し、分割移転部分との関連で土地の収用が認められる可能性もあるため、具体の案件では最新の制度を確認して算定を行うこと。
4 出力制御機器について
Q4.調査対象の事業用太陽光発電設備は、平成26年に設置されており、出力制御機器は設置されていない。現在は出力制御機器設置が義務化となっており、移転に際し出力制御機器を法令改善費として計上すべきか
A4.九州電力では平成27年1月26日以降の接続申し込み案件について、10kW以上は出力制御機器が必須となっている。既存の太陽光発電設備の移転に際し追加設置しなければならないか、資源エネルギー庁へ尋ねたところ、「省令では電力会社が求めれば設置しなければならない。あとは電力会社と協議を。」とのことであった。
現時点で該当の事例がなく、具体の案件が発生した場合は、ケースバイケースで対応願いたい。なお令和4年4月時点で、全ての太陽光発電設備について出力制御対象となっているが、10kW未満は当面対象外とされており、最新の制度を確認して算定を行うこと。
5 電力会社との系統連系工事費について
Q5-1.全量売電の系統連系は電力会社が直接工事を行い、事後精算で地権者に請求する。そのため電力会社に系統連系費用の見積を依頼しても応じてもらえない
Q5-2.仮に構外移転となった場合、地権者から「近くに配電柱があるような移転適地はない。配電柱があるところまで、場合によっては数キロも系統連系費用を負担しなければならない。」と言われ苦慮している。どのように対応すればよいか。
A5.補償では、同一条件の敷地を想定するため、現在地の系統連系費を計上する。
現在地の系統連系費は、地権者から領収証等の写しを受領するか、地権者が所持していない場合は、電力会社に情報開示請求できる。なお、工事時点から時の経過に伴う補正が必要と判断される場合は、デフレーター等で補正を行う。
以上は、一般論であり、より踏み込んだ対応が必要と判断される場合は、発注者と協議の上、適切に対応すること。
6 電力会社との接続契約について
Q6.全量売電・事業用太陽光発電設備50kW以上で構外移転の場合、電力会社と接続契約(系統連系)を結ぶため、電力会社に接続検討依頼をすることとなるが、
・具体的な移転先を示す必要がある。
・配電線に近い南向き適地の検索は容易ではない。
・条件のよい場所は、接続検討の順番待ちで、数年単位の時間が掛かる。
・接続検討費は申請毎に20万円+消費税がかかり、仮に接続不可と回答があっても返金されない。
このような問題点があるため、構外移転の選択を躊躇している。
A6.発注者と協議の上、適切に対応することとなるが、営業廃止補償の売却損に準じた除却工法も考えられる。但し次のような課題がある。
・「無駄になった投下費用相当額」か「発電で得られる利益」のどちらを採用すべきか。若しくは両方を計上してよいか。
・仮に営業廃止補償を準用すると、2年分以内の従前の収益相当額または所得相当額であるが、移転に伴う買電価格の低下による収益減は、当初の固定価格買取期間の満了までとされており、期間の整合性。
・収益=売電収入-経費の「経費」は、営業補償と同様の調査をするか。若しくは家賃減収補償の「管理費及び修繕費相当額10%」のように定率を認定するか。
以上のような構外移転、除却工法の問題解決は今後の課題です。
7 調査表と算定様式について
Q7.太陽光発電設備の調査表や算定様式はないか
A7.発注者に要望するも、今のところ作成予定は無いとのこと。
そこで、これまでの事例等を基に参考様式を作成しました。下記を参照願いたい。
参考様式エクセル版は、左アイコンをクリックするとOneDriveからダウンロードできます。なおプログラム入り【算定用エクセル版】はCS研究会限定提供です。ご了承ください。
8 固定価格買取制度の申請窓口と設備認定期間について
Q8-1.エネルギー庁に申請することとなっているが、実際はJPEAが独占企業の様な形で申請を受けているのではないか。
Q8-2.また申請して認定が下りるまで、通常3ヶ月、申込日によって異なると聞いている。設備認定期間は3ヵ月で算定してよいか
A8-1..申請数が多い低圧連系の窓口はJPEA代行申請センターだが、メガソーラーや高圧連係の窓口は経産省の出先機関である。
A8-2.期間については、時間を要する場合があり、高圧連系の事例では、九州経済産業局が窓口で、変更認定に半年を要した。今のところケースバイケースで判断することとなる。
9 メガソーラーの構外分割移転について
Q9.メガソーラーについては資源エネルギー庁から聞き取りにより、同一敷地内または隣接地への分割は可能であるが別敷地への分割は不可能と聞きましたが実際はいかに。
A9.資源エネルギー庁によれば、別敷地に分割して、再使用機器による固定価格買取制度(FIT)での売電行為は、設備の使用年数を伸ばし、他の事業者と不公平になるため、規模の大小にかかわらず禁止とのこと。
即ち物理的な分割が可能である場合、FIT制度での取り扱いに留意が必要。分割移転する場合、復元(移設)工法では、FITが使えず任意による売電。再築工法ではFITの新規申請をすることとなる。
10 太陽光発電設備の除却工法について
Q10.太陽光発電設備の除却工法はありえないか。
A10.太陽光発電設備のうち、建材型など建築設備を除くと、生産設備の範疇である。生産設備は復元(移設)と新設を比較して合理的な移転工法を選択するルールであり、一般的に除却工法はない。
ただし営業廃止補償の売却損に準じた除却工法が考えられる

これらを踏まえ、工法別整理表を作成したので、参考にされたい。なおこれまでの知見に基づいており、今後の制度改正等に留意願いたい。
(注2)50kWを超える場合は接続検討がある。
・具体的な移転先を示す必要がある。
・配電線に近い南向き適地の検索は容易ではない。
・条件のよい場所は、接続検討の順番待ちで、数年単位の時間が掛かる。
・接続検討費は申請毎に20万円+消費税がかかり、仮に接続不可と回答があっても返金されない。
50kW未満は接続検討無し。
(注3)出力制御機器
移転(変更申請)に際し、追加要求するか資源エネルギー庁に尋ねたところ、「省令では電力会社が求めれば設置しなければならない。あとは電力会社と協議を。」とのこと。
なお2022年4月時点で、10kW未満については「当面の間、出力制御実施対象外」とされている。
(注4)営業廃止補償の売却損に準じた場合の問題点
・「無駄になった投下費用相当額」か「発電で得られる利益」のどちらを採用すべきか。若しくは両方を計上してよいか。
・仮に営業廃止補償を準用すると、2年分以内の従前の収益相当額または所得相当額であるが、移転に伴う買電価格の低下による収益減は、当初の固定価格買取期間の満了までとされており、期間の整合性。
・収益=売電収入-経費の「経費」は、営業補償と同じ調査をするか。又は家賃減収の「管理費及び修繕費相当額10%」のように定率を認定するか。
・「買取価格には廃棄費用として5%程度が含まれており、処分費の運用益相当額を対象とする。」とあるが、対象範囲が明確ではない。
一方、資源エネルギー庁の資料を読み解くと、おおむね「モジュール+架台+スクリュー基礎の解体・撤去+整地+運搬+処分」の範囲(1万円/kW、以下資料青枠))のようで、コンクリート基礎は通常の解体費を別途計上すべきと思料される。
太陽光発電設備の廃棄等費用積立制度について 令和3年9月17日 資源エネルギー庁
詳しくは「廃棄等費用積立ガイドライン 2021年9月公表 2022年4月改定 資源エネルギー庁(PDF)で。
11 資源エネルギー庁よくある質問より
資源エネルギー庁のHPにある2022年1月7日時点のQAに、移転補償に係る事項を加筆。詳しくは資源エネルギー庁>なっとく!再生可能エネルギー>固定価格買取制度で。
※接続同意(技術検討、50kW未満)
経済産業大臣の設備認定を受ける前に、電力会社に接続同意を取り付ける必要があるが、電力会社へ問い合わせたところ、「現在FITの駆込み申請が多く、接続可否の回答時期は見込めない。」とのこと。
仮に接続不可となった場合は、別の移転場所を示して、再度接続の申し込みをすることとなる。
接続検討(50kW以上)
50kW以上の高圧は、接続同意(技術検討)ではなく接続検討が必要。接続検討には申請ごとに20万円+消費税がかかり、接続不可でも返金されない。接続検討もさしあたって年単位の期間が係るとのこと。
即ち構外移転は、現時点で系統連系(売電)の見込みを担保できず、採用を保留せざるを得ない状況。
※かつては分割案件が認められており、例えば100kWは、高圧連系となり、キュービクルが必要。それを分割して50kW×2の低圧連系にするとキュービクルが不要となり、イニシャルコストが下がる。隣り合わせで同一所有者の低圧連系太陽光発電設備があると、移転の検討が厄介になる場合がある。
※例えばパワコンのみを更新する場合などがこれに当たる。
※このQAから、構内では、新規申請ではなく、変更申請の範囲で対応することが読み取れる。
制度の趣旨から、FITでの売電終了後は、そのまま設備を活用して任意で売電する、自家使用する、蓄電設備を備えるなどの対応が想定されている。そのため、FITで使った太陽光発電設備で、再度FITの新規申請は認められないことが読み取れる。
12 FITに係る令和4年度の動き
1. FIP制度
市場価格に一定のプレミアを交付。市場価格に応じて収入が変動。一般的な低圧50kW未満は対象とならないが、キュービクルがある高圧連系は注意。
制度について詳しくは、「FIP制度の開始に向けて 2022年2月14日 資源エネルギー庁(PDF)」で。
2. 廃棄等費用積立制度
10kW以上、FITの残期間10年目(即ち経過年数10年以降)、売電額から源泉徴収。2022年7月開始。
積立制度が始まって、仮に発電休止期間中の収益減を補償するとした場合、源泉徴収前の売電額を前提にしないと、積立額が不足する恐れがあるため、実際の案件では注意するポイント。
制度について詳しくは、「太陽光発電設備の廃棄等費用積立制度の開始について 2022年3月 九州電力(株)(PDF)」で。
3. 除却工法を試算するときに考慮するポイント
積立の新制度は
(1) 外部積立(一般)
(2) 内部積立(上場企業など)
の二つがあり、廃棄等費用積立ガイドラインによれば、「推進機関による外部積立に利息は付さない。」とあるため、外部積立か内部積立か確認したうえで、外部積立だと運用益相当額は補償できないことになると思われる。
制度について詳しくは「廃棄等費用積立ガイドライン 2021年9月公表 2022年4月改定 資源エネルギー庁(PDF)で。
13 参考テキスト(事業用太陽光発電設備の調査について)へのリンク
●上記を念頭に開催した発注者向け研修会テキストへのリンク
令和4年度用地補償研修会 令和4年10月21日
主催:(一社)日本補償コンサルタント協会九州支部長崎県部会
題目:事業用太陽光発電設備の調査について
1.事業用太陽光発電設備の特徴
2.事業用太陽光発電設備の用地アセス
3.事業用太陽光発電設備の事例研究
●ドイツ環境省庁舎 Umweltbundesamt
写真13-1 ドイツ環境省庁舎のアトリウム 2015年4月ドイツ・デッサウにて撮影
当時受領した左の小冊子によれば、陸屋根とガラス屋根に100kW(655u)の太陽光発電設備を設置。年間発電量125,000kWhは、庁舎内330の執務室のOA機器と照明の電気を賄うとのこと。
ガラス屋根のモジュールは光透過型のもよう。
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