一般社団法人 日本補償コンサルタント協会九州支部
令和2年度用地補償研修会(大分・長崎地区)

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(一社)日本補償コンサルタント協会九州支部基準運用専門部会委員
  長崎総合鑑定株式会社 補償担当取締役 幸福 裕之
0.目次
1.事業用太陽光発電設備の移転料の算定について〜用語の解説
2.事業用太陽光発電設備の特徴〜住宅用太陽光発電設備との相違点
3.事業用太陽光発電設備の移転補償費算定上の留意点
1.事業用太陽光発電設備の移転料の算定について〜用語の解説
取り上げるテキスト
・太陽光発電設備に関する事業損失等の解説「以下【解説】という」
・太陽光発電設備の費用負担額及び移転料の算定例「以下【算定例】という」 
【解説】 【算定例】
平成29年4月 国土交通省土地・建設産業局総務課公共用地室
研修テキスト表紙
・一般社団法人 日本補償コンサルタント協会九州支部では、令和元年度 通常研修会(令和元年12月3日佐賀、10日宮崎)のテーマとして出力10kW未満の一般的な規模の「太陽光発電設備の調査算定について」研修を実施しました。
・収益減補償は、この研修会のテキストや【算定例】で詳しく述べられているため、今回はより規模の大きい太陽光発電設備の移転補償費を取り上げます。
【解説】p.39 今回のテーマの範囲は青枠部分です。
表1 令和2年(2020年)3月末時点九州7県太陽光発電設備の導入件数
出力規模 10kW未満 10kW〜50kW未満 50kW〜500kW未満 500kW〜1,000kW未満 1,000kW〜2,000kW未満 2,000kW以上
件数 393,376 93,643 1,865 1,108 1,270 91
データ:資源エネルギー庁
・合計約約49万件のうち、出力10kW未満が約8割で、この規模の移転補償事例は蓄積しつつあります。
・次の「表2」は出力10kW以上のみ約10万件の表です。横軸の目盛りが450,000件から100,000件に下がります。
表2 同上出力10kW以上のみ表示
・出力10kW〜50kW未満の移転補償事例は、九州内で数事例あると伺っていますが、出力50kW以上の事例は知るところわずかです。このようにまだまだ事例が少ないことから、事業用太陽光発電設備について確立したスタンダードな調査算定方法はまだありません。
・そこで当社が担当し、いずれも移転が完了した、
【事例1】平成29年度発電出力50kW
【事例2】平成30年度発電出力400kW(同一所有者の200kWの太陽光発電設備が隣り合わせにある)
の調査算定事例をベースに、ひとつの解決例として、その際に留意した点を解説します。
・実際に案件に遭遇した場合は、先行事例を参照しつつも、補償基準、国のFIT(固定価格買取制度)など最新情報を得て、その時点で最も望ましい解決策を目指して業務に当たってください
●1-1 野立ての太陽光発電設備が移転対象となった場合の問題点
【解説】p.38
・このQ&A25には二つの解が示されています。
(1)移転補償費は専門施工業者の見積書を基本とする。
(2)移転補償費は復元費等の算定を行う。
(1)について、専門施工業者から見積もり取得に想定外の長時間を要する理由を「3.事業用太陽光発電設備の移転補償費算定上の留意点(以下「3.留意点」という)」で解説します。
(2)について、移転の原則論だけでは地権者の理解を得られず、場合によっては除却工法も試算する必要があることを次に示したうえで、移転工法のフロー(案)を同じく「3.留意点」で解説します。
・まずは、道路拡幅に伴う支障状況のモデルケースをご覧ください。
写真1 道路拡幅に伴う支障状況のモデルケース
例:出力50kW(モジュール240枚)のうち8.3kW(モジュール40枚)、17%が道路拡幅に伴う用地買収に直接支障。支障部分を構内に移転させる余地はありません。なお右側は別画地。
起業者
影響部分を含めた支障部分
又は全体の構外移転
所有者
支障部分の除却(撤去処分)
発電の損失を補填して欲しい
・補償の枠組みでは、移転が前提です。ルールに沿って調査算定を行うと「影響部分を含めた支障部分又は全体の構外移転」となります。
・一方所有者は、刻々と変わるFITをはじめとする法規制や、急速に下がる売電単価やモジュールなど資材費をにらみつつ、さまざまな苦労を乗り越えて設置しており、用地買収を目の前に「移転は無理だ。」と直感します。
・いかに所有者の立場を理解し、補償契約して移転まで結びつけるかが、問題解決の糸口です。「3.留意点」で解説します。
●1-2 過積載案件とは
【算定例】p.60 過積載の算定方法
【算定例】にいきなり「過積載案件」という用語が登場します。過積載とは、パワーコンディショナー(以下「パワコン」という)の出力を超えて、多くのモジュール(「パネル」ともいいますが、今回は「モジュール」で統一します)を設置することです。
・例えば出力49.5kWのパワコンに出力60kWのモジュールを設置するようなケースです。そもそもなぜパワコンの出力はモジュールの出力と一致させないのか。次のグラフで説明します。
表3 過積載のグラフ〜晴天時の発電イメージ
・パワコンの出力を超えた発電分は無駄になりますが、モジュールの出力一杯となるような好天の日は少なく、無駄になるデメリットより、日射量の少ない朝夕や曇天の時でも発電量が増大するメリットが大きいため、モジュールの過積載が主流です。
【事例2】で、隣接する二つの太陽光発電所のうち、ひとつはパワコンの出力200kWに対し、モジュールは当初200kWでしたが、その後250kWに増設し、調査時点では過積載でした。増設前と増設後のデータを分析すると、モジュールの増設率にほぼ正比例して発電量も増えていました。
【算定例】p.63〜64に過積載の場合の補償の考え方が示されています。設備容量2,000kWのうち500kW(1/4相当分)の分割です。
・現況が過積載であれば、移転後も過積載を前提としたパワコンの出力(容量)にすべき
・移転先で新たに必要となるパワコンは新設補償(減耗なし)
との記述です。50kW未満の太陽光発電設備は、5kW程度のパワコンを複数設置するため、パワコン単位で一部分割可能で、パワコンも移設できます。しかしこの算定例のメガソーラーは、規模の大きなパワコンがひとつもしくは二つだけで、パワコンを小分けできないため「移転先で新たに必要となる」との記載のようです。
【留意点】
・後述する【手引書】p.116【資料3】p.1に、期待寿命はモジュール20年以上に対し、パワコンは10年以上とあります。即ちパワコンの耐用年数はモジュールよりも短く、売電の残期間によってはパワコンの更新が想定され、維持管理費の増加分の検討が必要な場合があります。
・この算定例は、分割する規模が発電出力500kWとそれなりに大きく、ひとつの太陽光発電所として充分採算に合う規模です。
・この算定例では、変電設備(キュービクル)について言及されていませんが、一部分割する発電出力が50kW以上の場合、変電設備が必要です。特に50kW以上〜100kW程度の場合、経済効率が悪く割高になり注意が必要です。詳しくは「3.留意点」で解説します。
●1-3 発電出力の申請は、モジュールの出力又はパワコンの出力のどちらで行うか。
【解説】p.28
・以上のように、モジュールとパワコンの出力は一般的に一致しません。この【解説】p.28では、発電出力の申請はモジュールの出力とパワコンの出力のいずれか小さい方で申請する、と書かれています。どちらで申請したかによって、移転補償金の算定額に影響が出る場合があるので、取り上げました。詳しくは「3.留意点」で解説します。
・ちなみに、赤枠で示されている中央の系列2と右側の系列3は「モジュールの出力>パワコンの出力」で過積載です。
2.事業用太陽光発電設備の特徴〜住宅用太陽光発電設備との相違点
●表4 電力会社との一般的な系統連系区分
連系区分 低圧連系 高圧連系 特別高圧連系
設備容量 50kW未満 50kW〜2MW未満 2MW以上
電圧区分 600V以下 600V〜7,000V以下 7,000V越
受変電設備 電力会社:柱上変圧器で降圧して配電
100・200V
単相3線 ・三相3線
配電用変電所から柱上変圧器まで6,600V
需要家:キュービクルを設置して降圧
三相3線
2次変電所から送電線で33,000・66,000V
需要家:変電設備を設置
三相3線 ・中性点
需要家 住宅 ・商店 小規模工場 ・ビル 大規模工場
受変電設備
のイメージ

写真出典
低圧連系@
【手引書】は後述
【手引書】p.21
【手引書】p.23
・低圧と高圧連系の大きな違い〜発電出力50kW以上は変圧器(キュービクル)が必要
50kW未満の低圧連系:[住宅・商店]電力会社が維持管理も含め変圧器を設置。
50kW以上の高圧連系:[小規模工場・ビル]需要家が自前で受変電設備(キュービクル)を設置し、維持管理も行う。
・太陽光発電設備で売電する場合も同様
低圧連系:発電した電力を低圧のまま送り出し、電力会社が変圧器で昇圧して送電する。
高圧連系:自前の変圧器で昇圧し、電力会社へ送り出す。即ち、自前で変圧器を準備するからには、ある程度の規模がなければ「売電のうまみ」はありません。
・なお九州電力は原則として2MW未満の連系を要請しており、2MW以上の太陽光発電設備は数が限られます。
●2-1 余剰売電と全量売電の違い
写真2 公共施設の屋上に設置された太陽光発電設備の例A
【解説】p.6 余剰売電
・余剰売電とは、発電した電力のうち、自家消費した後、余った電力のみを売電。
・既存の公共施設や工場などに太陽光発電設備を設置するとした場合、電力会社との系統連携は済んでおり、既存の受変電設備(キュービクル)に太陽光発電設備をつなぎ込めば済みます。
・なお余剰売電せず全量売電する場合もあります。その場合の配線は既存の配線と全く別系統で組みます【資料3】p.2参照。
●2-2 全量売電
・全量売電とは、発電した電力を全て電力会社に売電。野立ての太陽光発電設備はこのタイプです。
・建設用地を用意し、まず電力会社との連系からスタートします。即ち余剰売電は、あくまで需要家がお客様ですが、全量売電は、主客逆転し、電力を受け入れてくれる電力(送配電)会社がお客様です。
・発電事業者(オーナー)は、電力会社に接続契約の申込みをし(買っていただけますか)、接続がOK(電力を売買できる)となっても、近くに配電線(電柱)が無い場合、接続場所〜太陽光発電設備間は、発電事業者が自費で配線する必要があります。つまり太陽光発電設備の適地とは、方位・面積なども重要ですが、配電線の有無も重要な要素です。
写真3 野立ての太陽光発電設備(低圧連系・出力50kW)の例@
系統連系 売電メーター パワコン8基 モジュール240枚
写真4 野立ての太陽光発電設備の構成(低圧連系・出力50kW)@
●2-3 電力供給開始までの手続きの概要【解説】p.15 Q&A8を再構成
@用地場所の具体の選定等の事業計画の策定
A販売代理店等で具体的な条件の設定、見積もりをとる
B電力会社に接続契約、特定契約を申込※注1
C電子申請により経産省から設備認定を受ける(申請から認定まで1〜2ヶ月)※注2
D電力会社の連系承諾(接続契約等の成立)【調達価格の決定】
E設置工事・完成・試運転
F電力供給開始【調達期間のカウント開始】
【参考】以下注1、2は2事例の調査当時の見地です。実際の案件に遭遇した際は、最新情報を確認してください。
注1:接続契約に至る電力会社との接続検討は、移転先を示した上で1年以上かかります。特に条件の良い場所は、接続検討の順番待ちで2年近くかかることも。かつ検討の結果、接続不可となると振り出しに戻って、新たな移転先検索に時間が必要です。また接続検討費は申請毎に20万円+消費税かかり、仮に接続不可でも返却されません。特に規模が大きくなればなるほど、電力会社の配電線に近い南向き適地の検索は容易ではありません。
以上、移転先検索にかかる時間を想定できず、構外を妥当な移転先と認定する合理性が見い出せない場合があります。
注2:変更申請の審査は、新設が優先されるため、後回しになり時間を要する場合があります。
写真5 (例)高圧連系接続検討(事前検討)申込書A
図-1 同上接続検討申込書より系統連係設備立面図A
この例では、出力350kW(パワコン250kW+100kW、モジュール415kW)。申込書は全148ページあり、移転雑費・建築確認申請代行手数料のような考慮が想定されます。
●表5 住宅用太陽光発電設備との違いの整理
連係区分 低圧連系 高圧連系
設備容量 50kW未満 50kW以上
固定買取区分 余剰売電・全量売電 余剰売電・全量売電
概要 住宅用太陽光発電設備の製品を使って、発電した電力を束ねている。 モジュールは低圧連系等と同じ
系統連系は事業用設備
●表6 設置場所による整理
設置場所 工場などに併設 野立てで単独
設備容量 50kW未満50kW以上 50kW未満50kW以上
固定買取区分 余剰売電・全量売電 全量売電
概要 既存施設と共に移転 系統連系に時間がかかる
予備調査の際、工場などは、航空写真で太陽光発電設備の有無を確認してください。
3.事業用太陽光発電設備の移転補償費算定上の留意点
●3-1 収集資料の一例 ○数字は、p.9「2-3 電力供給開始までの手続の概要」とリンク
A新設時の専門業者見積書 内訳明細があれば望ましい
B電力会社に申込み 接続検討(事前検討)申込書・検討結果
C経済産業大臣の設備認定 再生可能エネルギー発電設備認定申請書・通知書
D電力会社との接続契約 太陽光発電からの電力販売に関する申込書[高圧・特別高圧]
E完成図書 系統図、仕様書など
F売電収入、発電量 電力会社の購入電力料金明細書[過去3ヶ年]
Fメンテナンス(維持管理) 保守契約書、通信費、草刈り費など
土地賃貸借契約書、減価償却資産明細書、消費税の確定申告書等は、他の調査と同様
表7 調査表(例、受注者による案)
図-2 系統図の作成例
●3-2 工法検討(例示)
次に示すフローチャートは、確立したスタンダードではなく、あくまで例示です。以下、2事例で特に問題となった技術的課題を取り上げ、工法検討の流れをこのフローに沿って説明します。課題は案件毎に異なります。実際の案件に遭遇した場合は、専門業者のアドバイスを受けて適切に対応してください。
図-3 太陽光発電設備移転工法検討フローチャート(受注者による案)
 
●3-3 構内(残地)において現状と同様の形態で機能が確保できるか
【判断基準】敷地内に他に空地がある場合、又は太陽光発電設備等を整備(再配置)することによって、現状の機能が確保できるか否か。
再配置での注意点
2並列の場合、パワコンの入力電圧を揃える必要があります。ストリング1だけを離れた場所に移した場合、配線が長くなって抵抗が上がるとバランスが悪くなり、発電出力は、抵抗が高い方に引きずられて、全体として著しく落ちるので望ましくありません。
後述の【設計と施工】p.50 低圧連系の例
なお異なる電圧に対応するため昇圧回路を持つパワコンもあります。
・傾斜地設置のモジュールの傾斜角は揃えます
・一般的にキュービクルや電柱は、モジュールに陰ができないよう北側に設置します。
●3-4 太陽光発電設備の形態等からして、分離(割)が可能か。
【判断基準】
【算定例】p.60
 
 ・一般的には、パワコン単位での移転が想定されます。
低圧連系出力50kW未満は、パワコンが複数あるので、どこへ移転させるかという問題は残るものの、分割は比較的容易です。「1.用語の解説 写真1 道路拡幅に伴う支障状況のモデルケース」で示した例では、出力50kWで8つのパワコンがあり、50kW÷8=6.25kW単位で移転検討が望ましいことになります。直接支障部分は8.3kW(モジュール40枚)、17%でしたが、実際の移転はパワコン二つ分12.5kW、25%が想定されます。
写真6 モジュールの架台に設置された3台のパワコン@
但し分割が2割を越えると、残存部分も売電単価が下がります(詳細は後述)。
高圧連系50kW以上は、昇圧するための変電設備が必要となります。
【事例2】は、パワコン出力200kW×2発電所に対し、モジュールは2発電所で合計出力471.80kWあり、約18%の過積載でした。一部を移転させるとして移転先に新設するパワコンの容量は過積載を考慮すると68kWです。専門業者からの聞取りでは、その規模のパワコンはなく、100kWパワコン+変圧器(キュービクル、約1,000万円)が必要とのこと。
【例】キュービクルとパワコンを一体化したBUY電ゲートウェイ((株)日立産機システム)
・パワコンの寿命は一般的に10〜15年であり、20年の売電期間中で1回は交換する必要があることから、売電の残期間によっては新設費に加えて更新費用が発生します。
・小規模な高圧連系の発電所は、経済性が悪いシステムとなります。一般的に100kW程度までは、キュービクルが不要な50kWの低圧連系を複数設置する案が考えられますが、同一場所で50kW未満に分割する「分割案件」は、国が認めていません【資料1】p.4。
図-4 事業用太陽光発電設備の分割例(高圧連系出力200kWの分割イメージ)
出力200kWのうちモジュールの4割の80kWが直接支障し、支障部分を構外移転することとした場合
移転先の青文字は復元(移設)黄色文字は新設(減耗無し)
・構外に移転する分割した設備は新規発電所となり、売電単価が下がります。加えて分割する規模が2割を超えると、残存部分も売電単価が下がる可能性について、次に説明します。
【出典】資源エネルギー庁のサイトより【資料1】p.3
・2割の判断は、パワコン出力で申請したか、モジュール出力で申請したかで変わります。微妙な場合は、資源エネルギー庁と十分に協議を行ってください。
・以上のように有形的、機能的に分離可能であっても、経済合理性が劣る恐れがあるため、他の工法と経済比較を行う必要があります。
●3-5 構外に太陽光発電設備を設置することができる土地が確保できるか。
【判断基準】
・構外とは当該地より4km圏内とされていますが、太陽光発電設備は一般的に遠隔操作で監視を行い、メンテナンスを行う以外無人であり、移転距離より配電線の有無が重要となるため、各地域の実情等によって柔軟に対応することになります。但し既述のように、
・配電線が近い南向き適地があるか。
・電力会社の接続検討に長期間を要する。
があり、構外を妥当な移転先と認定する合理性が見い出せない場合があります。
●3-6 各工法の経済比較
・経済比較の算定内容は大きく分けて、「収益減」と「設備の移転費」です。
・収益減の算定は、既述のように、【算定例】と昨年の研修会テキストで対応できます。
・設備の移転費は、既述のように専門施工業者から見積書を徴収することとなります。専門施工業者が快く引き受けてくれれば、先へ進むことができますが、一般的には以下の理由により見積徴収には想定外の時間がかかるなど、困難性があります。
・一時期のブームが過ぎ、撤退や業種転換して、見積もれる業者、技術者が限られる
・新設工事は、メーカーの工事仕様書があり比較的容易ですが、分割や移転は定型の仕様書も経験もないため尻込みされる。
・また分割や移転は、新設工事と異なり、仕事の「うまみ」がなく、業者は見積った工事に対するリスクを負わなければならないため、渋られる。
・少なくとも決定した移転工法の見積書は徴収するとしても、その前提となる各工法の経済比較で、専門施工業者の見積書を得られない場合、自ら各工法の設備の移転費を見積もる必要があります。次はその際に参考となる図書です。
【手引書】 【設計と施工】 【実務マニュアル】
公共・産業用太陽光発電
システム手引書
太陽光発電協会
太陽光発電システムの設計と施工
太陽光発電協会
電気設備工事
積算実務マニュアル
全日出版社
左:【手引書】は必須。初心者にもわかりやすく書かれています。閲覧するだけなら、太陽光発電協会の公式サイトで可能です(但し、ダウンロード、印刷は不可)。
中央:【設計と施工】高圧連系の太陽光発電設備の調査には、必須。
右:【実務マニュアル】実際の試算にはこの書籍。
【実務マニュアル】太陽光発電設備に関するページがあり、低圧連系であれば概ね試算できます。
●3-7 試算における留意事項
(1)モジュールはガラス製品であり、移設に際し丁寧に扱うべき。
【手引書】p.67 【用地ジャーナル2017年7月】p.23
【事例2】では、構外移転に際しモジュールを梱包材で包んで、トラックに平積みにして運ぶこととしました(あくまで、一つの算定例です)。
(2)全量売電の系統連系工事費は事後精算なので、電力会社から見積書を得られない。
・系統連系工事は、電力会社の自営です。p.9「2-3B電力会社に申込み」時に、電力会社から申込者(発電事業者)に「事業用太陽光発電連系接続検討結果」で概算工事費を伝え、連系工事完了後に精算するシステムです。我々が電力会社に、既存の系統連系工事費や、移転場所を想定した見積依頼をしても断られます。
・既存の系統連系工事費は、「減価償却資産明細書」や系統連系工事費の精算書で判明します。
(3)モジュールを廃材処分する場合は、適正に処理する。
適正処理(リサイクル)の可能な産業廃棄物中間処理業者名 
【出典】太陽光発電協会資料より抜粋【資料2】
九州において、モジュールを適正処理(リサイクル)できる中間処理業者は上記2社のみ。北九州のリサイクルテックに問い合わせたところ、実際にモジュールを廃棄処分する前提でのみ見積もるとのこと。処分費はメーカーと型番によって異なり、【事例2】のシリコン系モジュールの参考聞取りで税抜き150円/kg(平成31年3月時点)。
●3-8 除却工法(支障部分の廃止補償)の問題点
以上フローに従って検討した結果、構内へ移転できれば道は開けますが、一部もしくは全体の構外移転となると、既述のように支障部分の除却工法も視野に入れざるをえない場合があります。 しかし以下のような点から現時点で採用工法としての算定は困難です。
そもそも稼働している施設に対する除却工法は、補償理論の趣旨に反しますが、
・「無駄になった投下費用相当額」か「発電で得られる利益」のどちらを採用すべきか。若しくは両方を計上してよいか。
・仮に営業廃止補償を準用すると、2年分以内の従前の収益相当額または所得相当額ですが、移転に伴う買電価格の低下による収益減は、当初の固定価格買取期間の満了までとされており、期間の整合性。
・収益=売電収入-経費の「経費」は、営業補償と同様の調査をするか。若しくは家賃減収補償の「管理費及び修繕費相当額10%」のように定率を認定するか。
・【解説】 p.41
・「買取価格には廃棄費用として5%程度が含まれており、処分費の運用益相当額を対象とする。」とありますが、その対象範囲が明確ではありません。
・一方、次の資源エネルギー庁の資料には「廃棄費用(撤去及び処分費用)」とあり、費用の対象は、資本費(システム費用、土地造成費用、接続費用)とあり、モジュールのみならず施設全体の解体・運搬・廃材処分費の全額と推測されます。
【参考】調達価格の算定において想定されている廃棄等費用(10kW未満の太陽光発電設備を除く)
【出典】資源エネルギー庁
・平成30年調査当時の資料を掲載しました。今年度も資本費の5%という考え方は変わりませんが、毎年新しい資料が出ていますので、実際の案件では最新資料を確認してください。
・太陽光発電設備はフェンスで囲うことが要件ですが、付帯工作物に分類される「フェンス」を、太陽光発電設備の補完設備として、太陽光発電設備と同じ生産設備のくくりとして、撤去・処分費の運用益だけを計算することも考えられます。
●3-9 除却工法の試算も含めた移転工法別比較表
・算定上の困難があっても除却工法を試算しなければ、用地交渉が進まない恐れがあり、次は除却工法も含めた試算例です。
●表8 移転工法別比較表(高圧連系の例示)
・この表は50kW以上の高圧連系の例示で、分割した構外の移転先で、高額なキュービクルが必要となる場合です。
・低圧連系は、分割が比較的容易なため、移転費用は「分割構外移転<全体の構外移転」となる可能性が大きく、あくまで費用の軽重の例示としてご覧ください。
・除却工法の収益減は、固定価格買取期間の満了までの例示ですが、営業補償(2年分)相当とすると、かなり少なくなります。
 ・以上、【事例1】低圧連系50kW、【事例2】高圧連系200kW×2の調査算定事例をベースに解説しました。繰り返しになりますが、実際に案件に遭遇した場合は、補償基準、国の制度など最新情報をベースに適切に業務に当たってください。その際の先行事例としてわずかでも参考になれば幸甚に存じます。
参考文献
●送電線鉄塔工事に伴い発生した太陽光発電設備にかかる移転補償および営業休止補償について
中部電力(株)用地部 用地ジャーナル2017年(平成29年)7月号 p.20
●倉庫及びその屋根に設置された太陽光発電設備の移転補償について
高知県土木部用地対策課 用地ジャーナル2020年(令和2年)9月号 p.4
●太陽光パネルの補償について
内閣府沖縄総合事務所 ネット上の論文
深謝 テキスト作成にあたりご協力頂いた方々
上記、○数字が付いた画像は、以下の方々・団体にご協力頂きました。
@株式会社 公共補償コンサルタント 代表取締役 花木 貴司様
(日本補償コンサルタント協会九州支部基準運用専門部会委員)
●NPO環境カウンセリング協会長崎(E-CAN) 理事長 早瀬隆司(長崎大学名誉教授)
A一般社団法人 おひさまNet長崎
 代表理事 宮原和明(長崎総合科学大学名誉教授)
参考資料
研修会でご紹介したトピックスなどは次のページをご覧ください。
www.be21.ne.jp/201210.htm
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写真7 屋根設置型の太陽光発電設備
2015年4月ドイツ・ダルデスハイムにて撮影。手前は風力発電を含む再生可能エネルギーだけで作られたCO2フリーをうたう電気自動車充電スタンド。
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